「BUDDY  GUY'S LEGENDS」



シカゴに着いた夜、時差ボケによる睡眠不足を解消し、
翌日のB.B.キングのライヴに備えて、
できるだけ早く身体を休めなければいけない。

しかし、これはたっぷりシカゴに滞在できる時の話だ。
12日の朝にはシカゴを発つ。
時間に余裕はなかった。
シカゴに来たら、ライヴ・ハウスに行ってブルースを満喫する。
これが私にとってベストな夜の過ごし方。
眠気を感じている暇はない。
大好きな場所に来ているので、
きっと身体の電池も切れなかったのだろう。
幸い、夜になっても疲れを感じることはなかった。

この日の夜は、世界を代表するブルース・マン、
バディ・ガイが経営するライヴ・ハウスに行った。
その名も「バディ・ガイズ・レジェンズ」

バディ・ガイは1936年、ルイジアナ州に生まれ、
その後シカゴにやってきて、1958年にレコード・デビュー。
現在でも彼は 世界的なツアーを行っているが、
シカゴに帰ってきた時は、お店に顔を出して、
気軽にファンへのサインや写真撮影に応じているという。

「バデイ・ガイズ・レジェンズ」は、
パーマー・ハウス・ヒルトンからおよそ車で5分ほどのところにあり、
このあたりの治安は比較的安全だと聞く。
しかし、夜外出する時は、なるべくタクシーを使った方がいいらしい。

菊田さんとマネージャーのグロリアさんもご一緒してくださることになり、
皆さんでブルースを楽しむことになった。
グロリアさんは気さくで、いろいろと心配りをしてくださる方。

店内に入ったとたん、渋いギター・フレーズが大音量で聴こえてきた。
今日出演しているミュージシャンは、ローリー・ベル。
ローリー・ベルのお父さんは有名なハープ奏者のキャリー・ベルで、
前月の3月6日にこのお店に出演した模様。

お店を入ったところにレジがあり、たくさんのバディ・グッズが売っている。
そして、すぐ長いバー・カウンターがのびていて
とば口に座っていた方が、菊田さんに気がついた。
どうもお知り合いのミュージシャンらしく、お二人で談笑している。
席につくと、何人かの人が菊田さんに挨拶をしにやって来た。
菊田さんの人脈の広さには驚く。
シカゴに来て14年になるとはいえ、
きっと菊田さんの明るく温かいお人柄が
その一因になっているにちがいないと思った。

前の方の席を案内され、飲み物を頼んで辺りを見回すと、
たくさんテーブルがおかれいる。
ステージに向かって左側の外れにビリヤードの台があり、
数人の人が玉突きをしていた。
白人のお客さんの方が多かったかもしれない。
ローリーのブルース・ギターと歌に、皆熱い拍手を送っていた。

私はその時、ローリー・ベルのギターを初めて耳にした。
泥臭い感じで、なかなか日本では聴けない音。
ローリーはギターを弾く時、その内面に封じ込めたものを吐き出そうとする。
何かがそれを抑えようとするが、彼はそれを一生懸命押し出す。
なぜだか、そうした心の葛藤が伝わってきた。

最前列でローリーの演奏を真剣に聴いている女性に目がいく。
きっとローリーの熱心なファンなのだろう。
演奏が終わった後、
ステージにあがっていたローリーとベーシストのフェルトン・クルーズ/
Felton Crewsが菊田さんのところにやってきた。
フェルトンは菊田さんバンドのベーシストでもあり、
あのマイルス・デイヴィスともアルバムを作ったことがあるそうだ。
こんなビッグなミュージシャン達に囲まれていること自体、幸せなことだと思った。

フェルトンのベースの弦は6本。
「私もベースを弾きます」と言ったら、
「あなたのベースの弦は何本ですか?」と聞かれた。
いろいろベースのことを聞いてみたかったが、
言葉がうまく話せず、とても辛かった。
話したいけど言葉が出ないというジレンマに陥いり、
私はテーブルの上で組んでいた手を解きながら、
悲しみの表情を浮かべて彼を見てしまった。
そうしたら彼はゆっくりと右手を私の手の方向に差し出したのだ。
「話せなくても大丈夫だよ」というフェルトンからの温かいメッセージだった。

帰る時、レジのところに積んであった冊子を菊田さんが私にくださった。
中を見るとこのお店のスケジュール(2か月分)や出演者の詳細、
音楽関係の広告がたくさん載っている。
このお店では、8ドル〜15ドルの間でチャージが料金が設定されているらしい。
今日は10ドルで、日本円に換算すると、およそ千円。
日本との違いに愕然とした。
シカゴに住んでいたら、ライヴ・ハウス通いにあけくれているかもしれない。

お店を出たのは午前1時過ぎ。
ホテルに着いて、床に着いたのは2時半。

今日一日、あまりにも充実していたため、
すぐ眠ることはできなかった。
そして何と5時半には目が覚めてしまったのである。
その後、もう眠ることはできなかった。

<04・4・28>


Rullie Bell

Shun Kikuta

Felton Crews

with Buddy Guy

Buddy's guitar

レジに置かれていた冊子